ヨーロッパの壁紙略史


1.皮革工芸品──52cm幅の理由

ドイツのカッセル市にある壁紙博物館では、ヨーロッパの壁紙は今から700年ほど 前に、皮革工芸品の日本で言う金唐革を壁に張ったのが始まりだとしている。羊の皮をなめして装飾柄を打ち出し、これに金銀箔や色鮮やかな絵の具で彩 色を施したも ので、豪華絢爛な装飾である。ある貴族がこれを張ったところ大評判になり、当時の 貴族は競って館にその装飾を施したという。
一頭の羊からとれる皮は、幅が50㎝程、長さも限られるので、壁面全体に張には何枚も張り繋ぐ。大変高価なもので特権階級にしか使えない。その後、紙が出現したた め、紙製の壁紙が広く用られるようになったが、幅寸法は52㎝が受け継がれ今日に至っている。

 

2.唐の宮殿壁画──壁紙の始祖

壁紙博物館では、壁紙の始祖は中国の壁画だとしている。唐の時代には宮殿壁画が流行したが、これは、紙に絵柄を施したものである。この文化がヨーロッパにも影響をもたらしたとされている。日本にも平安時代の初期に宮殿建築とともに宮殿壁画が伝えられた形跡があるという。日本では壁紙としてでなく、襖、屏風、衝立などに施される障屏画として発展していることは良く知られているとおりである。

 

3.紙の壁紙──人気集めた装飾

ヨーロッパで、紙に印刷された壁紙が始めて文献に現れたのは16世紀の初頭のことで、1509年英国のヘンリー八世が出した布告の紙の、裏面を利用した版木刷りの壁紙が発見されたという記録がある。
16世紀の中頃、1597年にフランスでは、アンリー四世の法令で「壁を装飾する目的をもった、張る紙を製作するものを職業人として認める」とあり、壁紙装飾が専門業 として成立していたことが伺える。
19世紀の初め、1801年パリのルイローベルという人が壁紙印刷機の特許をとった記録がある。その後、産業革命でシリンダータイプの印刷機が出現し、9mの壁紙を1 時間に100本も刷るなど、大量生産が行われるようになり、壁紙の需要は急速に拡大した。壁紙が人々に愛好され、大変人気を集めていた状態を表す記録も多い。
一方、壁紙の量産化に伴って品質の低下も生じたが、これを憂いた工芸家ウイリアム・モリスは、新しい工芸運動の一つとして、壁紙のデザインも行った。モリスのデザインは質の良い壁紙を見直させる役割を果たし、室内装飾におけるデザインの重要性を強く認識させた。